消えゆく鉄道'06 その1

神岡鉄道

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今年も廃線ラッシュの年である。
数年後にはローカル線があらかた無くなってしまうんじゃないかと思うくらいの勢いである。
本当は廃止の決まった路線だけでなく、現役を続ける路線の、普段の表情を見ておきたいとは思うのだが、限られたスケジュールの中では、存続路線どころか、 廃止予定線を回り切るので精一杯だ。今年もおおまかなスケジュールを立てて、できる限りの路線を回ることにする。

いつも訪問先を選ぶときには、季節感を考慮している。もちろん四季それぞれに魅力はあるだろうが、そんな毎シーズン全路線を訪れることなどできないので、 自分の中でその時期もっとも相応しい路線を選ぶことにする。


今年の大型連休中に訪れることのできそうな候補としては、くりはら田園鉄道と、神岡鉄道がある。

しかし、田園地帯を走るくりはらはどちらかというと稲刈りのシーズンが絵的におもしろいだろう。くりはら方面に行くならば鹿島鉄道もセットになるのだが、 秋の鹿島というのも訪れたことがない。
翻って神岡はどうだろうか。ちょうど新緑の奥飛騨を満喫できるだろう。ついでに関西の夜行列車を撮影してくることもできそうだ。


ということで、訪問先は神岡鉄道に決定した。


5月2日の8時、筆者の新居にY君到着。富山方面へ直接抜けるには最も早いと思われる、中央道経由のルートを取った。折しもゴールデンウイーク、サービス エリアはどこも混んでいた。
安房峠から471号線を下ると、随所にある温度計は1℃を表示している。まだ春浅い奥飛騨に着いたのは、深夜0時半ごろであった。
とりあえず奥飛騨温泉口駅に立ち寄った後、どこで寝るかを思案する。
始発列車から数本は全区間運転であるから、どの駅で寝ても構わないことになるので、順に猪谷方面へ向かいながら駅を訪ねてゆく。そして人気のなさそうな漆 山駅を、今晩の停泊地と決めた。

・・・しかし静寂は長く続かなかった。山菜採りのオヤジ共がやってきて朝から大騒ぎである。結局4時頃に目が覚めてからは全然眠れず、完全に寝不足のまま 始発列車を迎えることとなった。



 漆山駅   桜のじゅうたん



全線運転の列車が集中するうちに、猪谷〜神岡鉱山前間での撮影をしておくことにする。


まずさっきの折り返しで下り列車がくる。これを渡れば富山県という宮川に架かる鉄橋に行ってみたが、写真が非常に撮りづらい場所であり、しかも列車は突然やってくる。 あれこれ思案していたらもうトンネルから飛び出していた。シャッターを押したら電源が入っていなくてあわててしまう。

 フライング・モノ状態


そのまま列車を追いかけてみたが、途中で遅い車に引っかかり、辛うじて茂住駅でケツ打ちできた程度だ。

 新猪谷ダムを望む


そのまま茂住駅にとどまる。かつては対岸の鉱山から鉱石を積み出していたらしく、広い構内を持ち、施設の遺構もわずかに残っている。しかし今は側線も撤去 され、淋しい駅になってしまった。

 茂住駅   融雪溝の清水

今日は晴れの予報であるが、空はいまだ曇ったままだ。露出も厳しいため、三脚を使用する。フレーミングの下手さを反省して、最近は積極的に三脚を使うよう にしている。
トンネルにヘッドライトが見えた。しかし見えてからが非常に長い。相当ゆっくり走っていることがわかる。

 トンネルが多い


ようやくトンネルを出た列車は、駅で数人を乗せたあと、またトンネルに消えていった。

 広い構内の名残



神岡までは高原川に沿って山岳地帯を縫うように走っている。トンネルも多いため、この区間では撮影地はおのずと橋梁が多くなる。その橋のほとんどは、国道 から見ることができるのだが、唯一見ることのできない、カーブした橋がある。神岡鉄道のホームページにこの橋を俯瞰で撮影した写真が載っていたので、これ を撮りたいと思ったのだが、場所がわからないので、とりあえず橋の近くまで行ってみることにした。
しかし、雑木林の中をアクロバティックに進まねばならない。大変疲れる上に、藪こぎを想定した服装で来ていないので、とても危険である。橋のたもとに着い た ときはかなり疲労してしまった。

 苦労の甲斐はあったのか



これ以降は、鉱山前駅止まりの列車と全線運転列車が交互に走る。よって、ここから奥飛騨温泉口までの区間をメインに撮影する。
その神岡鉱山前駅は、少し変わっている。
コンクリートの擁壁の上に線路が展開していて、その擁壁のどてっぱらに穴が空いている。これが駅の入口だ。我々も ここから入って、ホームに出てみた。

 ぽっかりと

ホームには折り返しを待つおくひだ1号が停まっている。
よくある3セク風車両で、民営化の当時はどこに行ってもこんなのばっかりでつまらなかったのだが、それ から20年経とうとしている今、この車両も味が出てきたようだ。

 KM-101型   出番のないKMDD131

 サボも珍しくなってきた


神岡鉄道では、猪谷以外の全ての駅のホームに木彫りの七福神が置かれていた。
自社駅がちょうど7つだからなのだろうか?

 鉄路を見守る   りりしいお顔



一度奥飛騨温泉口まで戻ることにする。
高地であるが故春も遅く、まだ桜が咲いているところもある。散ってしまったものも多いが、遅咲きの桜を見つけては撮 影することができた。まさか桜を絡めて撮れるとは思わなかったので、これはラッキーだった。

 春浅き

 のどか   八重桜が見頃

そして奥飛騨温泉口駅の様子をうかがう。駅前には、かつての線路の上にDE10が置かれていた。
駅は桜も終わり、ひっそりとしていた。

 奥飛騨温泉口駅   飛騨を望む


 透かし彫り   最近のホームでは見かけない



この頃にはすっかり日も差していた。神岡大橋駅付近に、立派な桜の木を発見。ちょうど満開である。ここで一本撮影する。

 見事な桜


 汽車を見送る   神岡大橋駅


移動中に、飛騨神岡駅を俯瞰で眺める場所を発見した。
この駅は山間をつなぐ高架橋に設置された駅で、ホームの下を道路や川が通っている。そしてその向こう には、この鉄道の存在意義であった、神岡鉱山が見えている。

 神岡鉱山を背に

列車を見送った後、その駅まで下りてみた。さすがに面白い構造をしている。神岡の山々が一望できる。

 飛騨神岡駅全景   寝殿のようだ


 下を流れる川   かつての繁栄は今…

駅前には湧き水があり、飲んでみるとけっこうおいしい。ペットボトルに詰め込んで、先へ移動した。

 おいしい湧き水



先ほどの桜があまりにも見事だったので、もう一度アングルを変えて撮りたいと思い、再び神岡大橋へ向かうことにする。
まだ時間があるので、神岡城を見物したりしながら時間を潰し、お昼を近所のスーパーで購入。この付近で捕れるらしい鮎の塩焼きが、総菜コーナーに無造作に 並んでいた。なんかうまそうだったので購入。列車を待ちながら食す。なんとも至福の時である。

 桜の神岡城


 桜ともお別れ



再び全線列車が走る時間なので、こんどは沿線のハイライトの一つである、第二高原川橋梁に行ってみた。アーチ型の鉄橋は、色といい形といいまるでプラレールのようだ。

 プラレール?

このポイントに着いたとき、なにげなく歩道を見たら、何か歩いている。
犬かなにかかと思ったら、なんとカモシカだった。こんな日中に、大丈夫だろうか。車に撥ねられたりしないだろうか。心配になった。

折り返しの列車まで待ち、今度は別の橋で撮影する。41号線は大量のドライブやツーリングの車・バイクで、路肩を歩くのも恐ろしい。

 背後は車がビュンビュン


再び飛騨神岡にやってきた。橋脚に描かれたネズミのキャラが怪しくて実に良い。

 やあぼく○ッキー



さていよいよ日も傾いてきた。山間だけあって、夕方になると日があたらなくなってくる。一気にさびしい雰囲気になってきた。
神岡の市街地にまた戻ってきたが、列車まで少々時間があるので、神岡鉱山前駅から延びる廃線跡を探訪してみた。神岡鉱山からの硫酸輸送があったころの名残 である。廃線からまだ2年経たないので、まだ現役のようだった。

 本線との分岐点   鉱山への鉄橋


 まだ走れそう   活気を失った構内


そして鉱山前を出発する列車を撮影する。単線なのに非常に大きな用地が確保してある。これは豪雪地帯が故に、除雪時の雪よけスペースなのだろう。しかしこ こに雪が再び積もる頃には、この線路は役目を終えていることだろう。

 広い掘り割りを行く


いよいよ撮影も終盤である。猪谷に向かいながら、途中で列車を迎える。
まずは上り列車を、途中の橋で撮影。小さな滝がアクセントになっていた。

 水音を聞きながら


そして、その折り返しとなる下り列車を飛騨中山駅で撮影するために、41号に乗り下流を目指す。しかしもっといいところが見つかれば途中でも停めて撮りた いと考え、 できるだけ線路沿いのルートを選択、旧道に入った。

・・・なんかセンターラインが薄い気がするが、かまわず突っ走る。

目の前に突然、倒木が道をふさいでいるのが見えた。やばい時間がない。Y君と下車し、必死に木をどかす。いつのまにか後続車が1台来ていた。お前らも手伝 えよとか思うが、そんなことを行ってるヒマはない。車に飛び乗って先へ進むと・・・

今度は電柱が倒れていた。

こればかりはどうしようもない。あきらめて引き返す。おかげでだいぶ時間をロスしてしまった。
なんとか飛騨中山駅に到着した。しかしホーム端にはすでに先客が。我々が撮影しようとした立ち位置では、思いっきりその人のフレームに入ってしまう。そこ で やむなく、ホームの下に隠れることにした。

 飛騨中山駅   奥飛騨路へ


本線を走る列車の撮影はこれでおわりだ。最後に猪谷駅に行ってみよう。

 JR猪谷駅

ちょうど高山本線の列車も行ってしまったばかりのようである。
猪谷駅はかつての神岡の繁栄を偲ぶに十分なほどの広い構内を持っていた。近くには鉱山のアパートが。入居者はまばらであるが。

そしてしばらくして、バスがやってきた。JR代行バスと掲げられている。高山本線は、2004年の水害の影響で、猪谷〜角川駅間が運休となり、バス代行と なっているのだった。高山本線のさびたレールがさびしい。

 代行バス   錆びた高山本線


列車の到着まで時間があるので、道の駅で時間を潰した後、ふたたび猪谷駅にやってきた。もうあたりは真っ暗で、高山本線のキハ120が待っている。

 去年は富山港線で逢いました


しばらくして、トンネルの中にヘッドライトが浮かんできた。
おくひだ号はポイントをいくつも渡り、猪谷駅のホームに滑り込んできた。

 入線


バルブで夜の駅を撮影した。たぶんこれがおくひだ号をこの目で見る最後の瞬間だと思うと、撮影が終わってもなんとなくその場を離れがたい気がした。

 高山本線に乗り換え


 折り返しまで小休止



すっかり闇に包まれた41号線から神岡鉄道の線路を見ながら南下し、神岡鉄道を後にした。
神岡といえば、公害の暗い過去もあるが、ノーベル賞を生み出した明るい未来もある。 温泉口近くで撮影中、地元の方と話したが、こちらがそう訊くまで、鉄道が無くなって「さみしい」と言う言葉は無かった。神岡鉄道は、役目を終えて去ってい くが、町 の人たちはそれに落胆せず、次の未来を見ているようで、なんとなく安心した。

   さらば神岡鉄道

'06-5-29

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