消えゆく鉄道'96 その2
●鶴見線
近くて遠いとは、まさにこのことか。
近くにあると、「いつでもいいや」と言う気になるのは、どのレイルファンも経験することだろう。
それが今回の鶴見線だ。かつて中坊時代に、まだ海芝浦までの運用があった頃に乗りに来たことがあったが、そのときは「ここはずーっとクモハ12が残るだろう」とタカをくくっていた。
その安心の理由は、武蔵白石駅のホームだった。
この駅の大川支線へむかうホームは、急カーブの途中にあるため、18m級の電車でなければ、このホームにはいることができなかった。つまり、20メートルある103系は入って来れないわけだ。まさかこの線区のために新造車を誂えることもないだろう、それならばクモハ12は未来永劫安泰だ、と、我々を安心させるには十分な材料だった。そのはずだった。
…まさかそのホーム自体が廃止になってしまうとは…
そんなわけで、ようやくケツに火がついた我々は、2月の寒空の中、川崎へと車を走らせた。
今回も、平井堂所属の、RX-7が充てられた。この程度の近距離ならば、この車両も航続距離内だ。
特記することもなく、我々は川崎の産業道路までやってきた。
目的地、大川駅に着いたのは、夕方16時ごろであった。この線区の特徴としては、昼間はまったく旅客列車が走らないと言うことだ。通勤用に走っている線なのだから、当然近隣の会社の始業終業時間に合わせてダイヤが組まれている。
加えて冬のこの時間帯だ。撮れる列車は日没までのせいぜい2往復程度になる。
時刻も16時半を回った。まもなく夕方の一番列車がやってくる。
そのまえに、駅構内の様子をいろいろ取材しておいた。今はほとんど本線では見かけないホキ達も、ここではまだまだ活躍中だ。
しかし、相当な過熱ぶりを予想してきたのだが、我々の他には2〜3人程度しか同業者を見受けない。数人の休日出勤者と、他には、いつもは無人のこの駅に数人の鉄道員がいるのが目につくぐらいだ。
不思議に思いながら、やってきたクモハ12を出迎えた。
ところが、電車がホームに着いた途端、景色が変わった。
単行のクモハ12から途切れなくあふれ出る人、人、人。
いったいクモハ12の定員は何人なんだろうと思わされるくらい、大量の人が吐き出されてきた。そして、ホームに、線路に、踏切にと、あちこちに黒山の人だかりが、それこそ瞬く間にできてしまった。
いつの間にか、駅の周りにもたくさんの車があふれている。我々が着いたときには、他に車の気配すらなかったというのに。
電車が着いたときとは打って変わった喧噪の中、再びたくさんの乗客をのせて、電車は武蔵白石へ戻っていった。もちろん駅周辺には大量の人が残って、去っていく電車を眺めていた。
数十分後に、また大川へ向かって電車が走ってくる。が、このお祭り騒ぎの中では、あまり写真を撮る気にもならないのが鉄チャン心理だ。
そこで、対岸の、安善駅のある埠頭へ行った。ここで、運河をわたる列車を狙おうと考えたのだ。
そのさらに向こうの、芝浦埠頭には、103系がゆっくりと走っているのが見える。
こちらも難を逃れてきた鉄チャンが、カメラの放列を作っていた。
我々も仲間に混じり、次の1往復分をカメラに収めた。
撮影はこれで終わり。あっけない気もするが、暗くなっては仕方ない。まあ、朝から気合いを入れて来れば良かったのだが。
そんなわけで、クモハ12とのお別れは、取材時間にして1時間程度の、実にあっさりとしたものだった。
そして早々に引き上げた我々は、電脳部品を求めて、秋葉原へと進路を取ったのであった。
99.8.20
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