過去の栄華 その1 |
●下津井電鉄
■ 1 ■
高校の修学旅行。
初日の岡山は、自由行動だった。
後楽園や倉敷のあたりを見学するのが推奨コースだったが、
僕らは先生に無理を言って、水島を経て
児島に向かった。
まだ気温も高い10月の始め。
児島の小さなホームに立つ。
陽炎の中から、小さな電車がやってきた。
電車はらくがきだらけ。
いたずらというわけではない。「らくがき電車」として
その身体をキャンバスに呈していたのだ。
琴海駅に停まった。
車窓からの風景は、この上なくきもちいい。
5キロほどのわりには、たっぷり時間を掛けて
電車は下津井駅に到着した。
港からの潮風が薫ってくる。
駅にいる以外、何もすることがないところ。
そういう、時間の止まったような
夢の中のような空間だった。
さあ、みんなに合流するために
宇野駅に行こう。
ふたたび電車に乗って、児島に戻る。
夢の世界から現実に戻る
おとぎの電車…
ふと、そんなふうに感じた。
おわり
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